「大臣、結婚式は、ラクシャと二人だけでささやかに行いたいんだ。……それでもいいかい?」
私の最愛の人──ボリスは、そう大臣に伝えた。
「そ、そんな、困りますよ王子! 城の主でありながら、そんな威厳のない式を行うなんて!」
大臣は慌ててボリスの言葉を否定する。そんな大臣と対照的に、ボリスは落ち着いて答えた。
「威厳は無くとも構わない……そう思わないかい、ラクシャ」
「ええ、私は派手なことは苦手ですし……良ければ、慎ましやかに式を行いたいわ」
私は、思っていることをそのまま伝えた。知っている人達と言えど、大勢の人たちに囲まれて祝ってもらうのは、少々辛い。
……それに、こんな大事な式だからこそ、ボリスと二人きりで行いたいわ。
「む、むう、そこまでおっしゃるのなら……わかりました、服やお料理などは下々に用意させますので、その時ノックした時はお応えください」
「わかった。ありがとう、大臣」
◆◆◆
気の利かせてくれた大臣たちは、ウエディングドレスと料理を用意してくれた後、すごすごと私達の部屋から立ち去った。料理は二人分なので、量は──かつて故郷の村で見た──普通の式で出てくるようなものではなかったが、私達にはそれで充分だった。
「では、ラクシャ。……誓いを」
「ええ。……私はボリスと永遠に愛し合うことを、誓います」
「僕も、誓います」
そっと、ボリスが私の腰に手をまわし、顔を近づけてくる。私はそっと目を閉じ、「それ」を待った。
……これが、私達二人にとっての、初めての唇のキスだった。
いつまでそうしていたのかは正確には数えていないけれど、とても幸せな時間だったことは覚えている。
私はさっきまで口で息ができなかったせいか、それとも違う理由なのかはわからないけれど、とてもくらくらしてしまった。
「大丈夫? ラクシャ」ボリスは心配そうに私の顔を覗き込む。
「ええ、大丈夫よ。少し息苦しかっただけ。少しソファで休ませて?」
「もちろん。料理はゆっくり食べようか」
私達は、綺麗に並べられた料理をゆっくりと味わって食べた。
食材は、地上の世界から輸入しているらしい。だから、安心して食べていいよと、ボリスは言っていた。
綺麗に料理を平らげた後、私たちは部屋でゆったりと踊った。
天空城はやはり空の上なので寒い。なので、暖炉が置いてあるのだが、私達はその暖炉の近くで踊った。
ゆらゆらと私とボリスの重なり合う影が揺れる。それはとても幻想的で、とても美しかった。
……そうしてそれも終わった後、私とボリスはバルコニーで星空を眺めた。下には厚い雲があり、地上にいては一生見られなかった光景だ。
「……約束した時も」
「うん?」
「あの約束をした時も、こんな月と星が綺麗な夜だったわ」
「そうだったね。でも、あの約束は結局……」
「いいの。ボリスのせいじゃないし、それに……今は、ボリスと傍にいられるだけで、幸せだから」
「……そうか」
「……ねえ、ボリス」
「うん?」
「今日は……星が綺麗ですね」
あなたは、私があなたをこんなに想っていることを、知らないのでしょうね。
「ああ、でも今日は……月も綺麗だ」
僕は……自分の思いも、ラクシャの想いも、理解しているよ。
──『愛してる』
【あとがき】
「もくり」という作業通話チャットでお話しながら、ボリラク好きの人たちと一緒にテーマ「結婚式」で小説を書くという企画で書きました♪