小さな旅の手帳

ポポロクロイスの二次小説とか雑記とか

今、此処にはない夢

・ボリラクのIFストーリーです

・原作の設定と異なります

 

ラクシャ! 何度言ったらわかるんだ!」


 サーカスの練習が終わった後でも、怒声が未だに耳に残る。
 そうしてまた怒鳴られたことを思いだし、ズキズキと心身ともに傷が沁みていく。

 ……疲れた。

 明日も朝が早いので、すぐに寝床に潜り込む。月が落ちて太陽が昇れば、またあの悪夢のような特訓が始まる。
 ……そういえば、最近「夢」を見るようになった。まだ村にいた頃、絵本でみたような摩訶不思議な夢。絵本で見る分には怖くないけど、実際に自分が迷い込むとなると──恐ろしくてたまらないわ。
 でも、その夢には、必ずある男の人が出てくるの。その人はいつも私のことを守ってくれて、あまり表情が動かないけれど、口から出る言葉はとても優しかった……ような気がする。まるでお兄ちゃんみたいだなと思った。姿は全然違うけれど……。

 私はその人と一緒にいると、何故か勇気が湧いてくるの。不思議よね、現実では会ったこと無い人なのに。私は夢の中で、胸が温まるような想いを抱いた。そうして、良いところで目が覚めてしまうの。そうして、今ここにある現実に虚しくなる。悪夢なのは、サーカスの訓練なのか、摩訶不思議な旅なのか、一体どっちなのかしらね。

 私は夢の中の憧れの人に思いをはせながら、目をつむった。
 また、あの男の人に会うことができますように。


「夢なら、醒めないで」


◆◆◆


 あなたと会い、「あの旅」が終わってから、長い年月が過ぎました。
 あなたは今どこで何をしているんでしょう。元気にしていますか。無事、天空城にたどり着けましたか?

 私? 私は元気です。父も母も、兄も元気です。大陸を渡り、ガバスに着いて再会した時のあの瞬間は、今でも忘れられません。まさか、すぐ近くに避難していたなんて。
 ガバスは質素な暮らしをしている人達が多い町です。なので私はすぐにこの町に馴染むことができました。もしガバスが欲にまみれた黄金の町だったりしたら、悪夢の日々になっていたことでしょうね。まあ、現実はそうではありませんが。

 そういうわけで今は贅沢をしなければ安定した暮らしができています。
 時は一定のリズムを刻んで、淡々とした日々が続いています。やっぱり、あなたと過ごした日々よりは、刺激はずっと少ないです。面白くありません。そんなこと、家族には言えませんが。

 長いようで短かった、あなたと旅をした日々。様々な町を巡り、大陸を渡る旅はとてもとてもワクワクするものでした。幼く体力のない私のために、度々休憩を挟んでくれた優しさが、とても胸にしみます。
 もしかしたら──私はあなたのことが、「好き」だったのかもしれません。今更気づくなんて、遅いですよね。結局、自覚できない想いは、言語化できず、夢のように儚く消えてゆくものなのでしょうか……。

 ……いえ、それは違うと思います。そのままの形で伝えることはできなくても、想いは様々な形で広げていくことができると思うのです。
 その形の一つとして、私は二つの本を書きました。一つは、今まで旅してきて見たもの、聞いたもの、食べたもの等を残した旅日記。そして、もう一つは──「夢幻絵本」というものです。

 実は、私はあなたに会う前から、あなたに会っていました。夢の中で。変な話ですが、あなたなら信じてくれると思っています。その夢は不気味で、摩訶不思議で、よくある子供の頃にみる悪夢なのですが、その夢にはいつもあなたが出てきました。私にとって、憧れの存在でした。
 その夢の中でも、私とあなたは旅……いや、冒険をしたのです。あなたが緑の甲冑に身を包んでナユタ──夢の中の住人です──に挑んだり、私とあなたが白い服に身を包んで白馬に乗って旅をしたり──、とにかく、数えきれないほど様々なことをしました。

 幸い私は、人より記憶力が良かったので、子供の頃見た夢を、沢山覚えています。なので、その中から特に思い出深いものを選び、再構成し、1つの物語にしてみました。それが、「夢幻絵本」なのです。
 あなたとの日々を、永遠のものにしたくて。

 私はこの本を、町の子供たちに読み聞かせ、ずっとずっと語り継いでいくでしょう。それが私にとっての、愛の形なのです。


 愛しています、ボリス。

 

【あとがき】

 ある意味バッドエンドなお話をここまで読んでくださりありがとうございました。もしかしたら苦手な方もいるかもしれません……。
 ポポローグ本編や田森先生で「夢の世界では時間や空間は無意味なもの」と言われていて、もしかしたら夢幻ダンジョンのお話も旅の途中(現在)に起きた話ではなく、ラクシャの過去や未来で見た夢なのかもしれない、と思いこのお話を書きました。

 

 

書いた日:2022年6月17日