小さな旅の手帳

ポポロクロイスの二次小説とか雑記とか

季節お題「桜」

「お母さん! 見て見て、桜よ! ……どうしたの? 何か、面白い事でもあった?」
「いえ……ルナがそうやって幸せそうなのが、とても嬉しくて」
「そうなの? 変なお母さん。そうだ、お母さんもこっちにおいでよ。楽しいよ!」
「ありがとう、ルナ。……でも、私はもう、そちらには行けないの」
「どうして……?」
「それは……」

 

 ……気が付くと、私はベッドで寝転がっていた。今のはどうやら、夢だったらしい。
 そうだった。お母さんはもう、この世にはいないんだったね。涙で視界がぼやけていたので、私はそっとそれを拭った。
 時折、お母さんの夢を見ることがある。桜の夢を見たのは、きっと今が春だからだろう。今夜も、朧月が夜空でぼんやりと光っている。
 あれから何度季節が巡っても、私は失った大切な人……お母さんのことを思い出す。時々、思いだして、泣いてしまうこともある。もうしっかりしなきゃいけない歳なのに、こんな調子の私をお母さんが見たら、きっと呆れられてしまうだろうな。
 そのことをピノンに少しだけ相談したことがある。ピノンは、自分のことのように真剣な顔で考えてくれて。「気分転換に、ポポロクロイス城下町の桜でも見に行こうよ。日の国っていうところから頂いた木なんだって」と、提案をしてくれた。そして実際に、ある年の春に、見に行ったことがある。凄く可愛いお花だった。暖かくて少しだけ肌寒い季節には、とてもピッタリなお花だな、と思った。
 私は少しだけ、気分が晴れやかになった。ありがとうピノン──と思っていたら、あるお母さんらしき人と女の子が花見をしているところを見てしまった。その子は子供の頃の私とはしゃぎ方がそっくりで、もしかしたら、私もあの子みたいにお母さんと一緒にお花見、できたかもしれないな……と、少しだけ胸が締め付けられる思いがした。
 ピノンには「楽しかったよ」とだけ言って、それ以来、ポポロクロイスの桜は見ていない。またああいう親子を見て、胸の締め付けられる思いをしたくないという、勝手な理由からだった。でも、夢に見るまで、私はあの桜という花のことが好きになってしまったらしい。

 

 ……夢の中でも構わないから、また、お母さんと一緒に桜を見ることができるといいな。
 ここで待ってるよ、桜のふる丘で。

 

 

書いた日:2022年4月15日